「下肢静脈瘤があっても飛行機に乗れますか?」

「下肢静脈瘤があっても飛行機に乗れますか?」 下肢静脈瘤の予防・生活習慣

「長時間の移動で、血栓ができないか心配です」

外来でも、このような質問をいただくことがあります。

結論からいうと、下肢静脈瘤があるだけで、旅行や飛行機を一律に控える必要はありません。症状がいつもと変わらず、ほかに血栓の危険性を高める要因がなければ、移動中に足を動かすなどの対策を取りながら旅行できることが多いと考えられます。

ただし、出発前から片足が急に腫れている場合や、過去に血栓ができたことがある場合などは、事前に確認しておいたほうがよいことがあります

この記事では、旅行前・移動中・旅行後のそれぞれで確認したい点を説明します。

飛行機だけが問題なのではありません

飛行機だけが問題なのではありません

旅行で注意したいのは、下肢静脈瘤そのものよりも、長時間同じ姿勢が続くことです。

足の静脈の血液は、歩いたり足首を動かしたりしたときの、ふくらはぎの筋肉の働きによって心臓へ戻りやすくなります。長時間ほとんど動かずにいると、この働きが弱くなり、足のむくみや重だるさが強くなることがあります。

これは飛行機に限った話ではありません。新幹線、長距離バス、車などでも、長時間座ったままになる場合は同じように考えます。

医学的には、4時間を超える移動が長時間移動のひとつの目安として使われています。ただし、4時間を境に急に危険になるわけではありません。移動時間だけでなく、現在の症状や過去の病気、手術歴などを含めて判断します。

旅行前に医療機関へ相談した方がよい症状

旅行前に医療機関へ相談した方がよい症状

出発前から次の症状がある場合は、予定を優先せず、先に医療機関で原因を確認したほうがよいと考えられます。

  • 片足だけが急に腫れた
  • 左右差がはっきりするほど片足が太くなった
  • ふくらはぎに原因の分からない痛みや圧痛がある
  • 足に赤みや熱感がある
  • 静脈瘤に沿って赤く硬い部分があり、触ると痛い

このような症状では、下肢静脈瘤によるむくみだけでなく、深部静脈血栓症や表在静脈の炎症なども考える必要があります。

足の血栓の症状と受診の目安については、こちらの記事で詳しく説明しています。

なお、胸の痛み、突然の息苦しさ、血の混じったせき、失神などがある場合は、通常の外来相談ではなく緊急の受診が必要です。症状が強い場合は、救急要請を検討してください。

旅行前に主治医へ相談した方がよい場合

旅行前に主治医へ相談した方がよい場合

現在、急な症状がなくても、次の項目に当てはまる場合は、長時間移動について主治医へ相談しておくとよいことがあります。

  • 過去に深部静脈血栓症や肺塞栓症になったことがある
  • 最近、大きな手術やけがをした
  • がんの治療中である
  • 妊娠中または出産後である
  • 女性ホルモンを含む薬を使用している
  • 自分で足を動かしたり、歩いたりすることが難しい
  • 血栓の危険性を高める要因が複数重なっている

下肢静脈瘤があることだけで、血栓の危険性が大きく高まると考える必要はありません。追加の危険因子があるかどうかが、判断のポイントになります。

また、下肢静脈瘤の治療直後に旅行できる時期は、治療方法や範囲、その後の経過によって異なります。「治療後は何日たてば飛行機に乗れる」と一律には決められないため、治療を担当した医師の指示を優先してください。

下肢静脈瘤の治療後の生活については、こちらの記事も参考にしてください。

長時間移動中の過ごし方

長時間移動中の過ごし方

特別な運動をする必要はありません。無理のない範囲で、次のような方法を取り入れます。

座ったまま足首を動かす

つま先とかかとを交互に上げ下げしたり、足首をゆっくり回したりすると、ふくらはぎの筋肉を動かせます。

足元に荷物を詰めすぎず、足首を動かせる程度のスペースを残しておくと行いやすくなります。

ときどき立って歩く

安全に移動できる状況であれば、1〜2時間ごとを目安に、立ち上がって少し歩くとよいと思います。

この時間は絶対的な基準ではありません。機内や車内の状況、体調に合わせて考えます。揺れているときに無理に立つ必要はなく、その場合は座ったまま足首を動かす程度で構いません。

水分を極端に控えない

トイレを避けるために水分を極端に控えると、体調を崩すことがあります。のどが渇いたら我慢せず、普段どおり水分をとるようにしてください。

ただし、水を飲むだけで血栓を予防できるわけではありません。足を動かすことと合わせて考えます。アルコールの飲み過ぎにも注意が必要です。

足を動かしやすい服装にする

長時間座っていると、いつもより足がむくむことがあります。足や腹部を強く締めつける服装よりも、座った状態で足を動かしやすい服装が向いています

靴は、多少むくんでも痛くなりにくいものを選ぶとよいと思います。

飛行機・新幹線・車で異なる注意点

飛行機・新幹線・車で異なる注意点

基本となる考え方は共通していますが、移動手段によって取り入れやすい対策が少し異なります。

飛行機

足元のスペースが限られるため、座席に着いたら足首を動かせる位置を確認します。立つ回数を増やしたい方は、通路側の席のほうが移動しやすいことがあります。

新幹線・特急列車

飛行機より席を立ちやすいことがあります。安全に移動できるときに少し歩くほか、長く眠る場合も、目が覚めたときに足首を動かすとよいと思います。

車・長距離バス

車では、安全な場所で休憩を取り、車外で足を動かす方法があります。バスなど自由に立ち歩けない場合は、座席での足首運動が中心になります。

弾性ストッキングは全員に必要?

弾性ストッキングは全員に必要?

下肢静脈瘤がある方全員に、旅行中の弾性ストッキングが必要なわけではありません。使用する場合は、次の点に注意します。

  • すでに処方されている方は、医師や看護師から受けた指示を優先します
  • 初めて使う場合は、サイズや圧迫圧が合っているか確認します
  • アスピリンや血液を固まりにくくする薬を、旅行のために自己判断で始めないでください

弾性ストッキングは、長距離移動後の足のむくみや、一部の血栓を減らす可能性が報告されています。ただし、危険因子のない方を含めて一律に使用するものではありません

弾性ストッキングの選び方と使い方はこちらで説明しています。

旅行後のむくみは様子を見てもよい?

旅行後のむくみは様子を見てもよい?

長時間座った後は、下肢静脈瘤がない方でも足がむくむことがあります。

次のような経過であれば、少し様子を見てもよいと考えられます。

  • 両足が同じ程度にむくんでいる
  • 痛み、赤み、熱感がない
  • 歩いたり足を上げたりすると軽くなる
  • 一晩休むと改善する

一方、片足だけが急に腫れた場合や、痛み、赤み、熱感を伴う場合、休んでも改善しない場合は、早めに原因を確認したほうがよいでしょう。

片足だけがむくむときの考え方は、こちらの記事でも解説しています。

旅行後に突然の息苦しさや胸の痛み、血の混じったせき、失神などが現れた場合は、すぐに救急医療機関を受診してください。

旅行や長時間移動について判断に迷う方へ

旅行や長時間移動について判断に迷う方へ

下肢静脈瘤があるという理由だけで、旅行を一律に諦める必要はありません。

一方で、出発前から片足の腫れや痛みがある場合、過去に血栓ができたことがある場合、最近治療や手術を受けた場合などは、旅行前に確認しておいた方がよいことがあります。

長時間移動してよいか判断に迷う場合や、足の症状が気になる場合は、自己判断で長く悩みすぎず、必要に応じてご相談ください

当院では、必要に応じて静脈エコー検査を行い、静脈の逆流や血栓の有無を確認しています。静脈の問題が関係しているかを整理しながら、旅行中の注意点や今後の対応をご相談しています。

この記事が参考になったと思ってくださった方は、旅行や長時間移動について同じように悩んでいる方へ、記事をシェアしていただけますと幸いです。

この記事を書いた人
春山興右

このブログでは、日々の診療の中で感じたことや、患者さんから実際によくいただく質問などをもとに書き始めました。
教科書的な内容はもちろんですが、本には書かれていない、現場で診療を続けていて初めてわかる知恵や皆さんが知りたいと感じることを、素朴に、わかりやすくお伝えしていけたらと思っています。

静脈瘤の診療は、国内外で取り組んできた医療ボランティア活動と並んで、私にとっては大切なライフワークであり、生きがいのような存在です。
ところどころ熱が入りすぎてしまったり、至らない点も多いかと思いますが、どうか温かい目でご覧いただけたら嬉しいです。

資格は、脈管専門医・指導医、下肢静脈瘤血管内焼灼術 実施医・指導医、皮膚科専門医、男性ストッキング・圧迫療法コンダクターなどです(治療者兼当事者であり、毎日弾性ストッキングを履いています)。
よろしくお願いしますm(_ _)m

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