「もう高齢なので、下肢静脈瘤の治療はできませんか?」
「80代の親に治療を受けさせた方がよいのか迷っています」
外来では、ご本人やご家族からこのような質問をいただくことがあります。
結論からいうと、年齢だけで下肢静脈瘤の治療ができないとは決まりません。
ただし、「高齢でも治療できるか」と「実際に治療を受けた方がよいか」は別の問題です。治療の必要性は、年齢だけではなく、症状、皮膚の変化、全身状態、歩行能力、持病、服用している薬、本人の希望などを合わせて判断します。
高齢だから治療を諦める必要はありませんが、高齢でも必ず治療した方がよいというわけでもありません。治療によって得られる利益と、通院や治療後の生活を含めた負担を一人ひとり確認します。
治療の判断で年齢より確認したいこと

同じ年齢でも、健康状態や生活の様子は大きく異なります。
毎日一人で外出している方もいれば、歩行に介助が必要な方もいます。複数の持病がある方、血液を固まりにくくする薬を服用している方、弾性ストッキングを一人で着脱することが難しい方もいます。
治療を考えるときは、主に次の点を確認します。
年齢は判断材料の一つですが、年齢だけで治療の可否を決めることはできません。
まず、症状が下肢静脈瘤によるものか確認します

高齢になると、足のむくみやだるさには複数の原因が関係していることがあります。
心臓や腎臓などの病気、服用している薬、歩く量の低下、筋力の低下、リンパの流れなどもむくみの原因になります。目立つ静脈瘤があるからといって、現在の症状がすべて静脈瘤によるものとは限りません。
診察では、症状がいつからあるのか、片足か両足か、朝と夕方で変化するか、歩行や生活にどの程度影響しているかを確認します。
必要に応じて静脈エコー検査を行うと、表面からは分からない静脈の逆流や血栓の有無を確認できます。ただし、エコーの結果だけで治療を決めるのではなく、症状や全身状態と合わせて考えます。
静脈エコー検査で確認できることは、こちらの記事で詳しく説明しています。
治療を検討しやすい場合

年齢にかかわらず、下肢静脈瘤が生活や皮膚の状態に影響している場合は、治療を検討することがあります。
具体的には、次のような場合です。
たとえば、足のだるさで買い物の途中に何度も休む、むくみで靴が履きにくい、傷の処置が毎日必要になるといった場合は、見た目だけの問題とは異なります。
皮膚潰瘍や繰り返す出血がある場合は、ご本人の苦痛だけでなく、毎日の処置や介助の負担も含めて治療の利益を考えます。
静脈瘤に伴う皮膚炎、黒ずみ、潰瘍、出血についてはこちらの記事をご覧ください。
急いで治療せず、経過を見ることがある場合

静脈瘤が見えていても、症状が軽く、皮膚の変化もない場合は、すぐに治療せず経過を見ることがあります。
次のような場合も、まずほかの原因への対応や保存的な方法を考えることがあります。
経過を見ることは、何も確認せずに放置することとは異なります。症状や皮膚の状態に変化がないかを見ながら、必要になった時点で治療を再検討します。
見た目だけが気になる場合も、本人がどの程度困っているかによって判断は変わります。周囲が治療を希望していても、本人が何を望んでいるかを確認することが必要です。
高齢者の治療前に確認すること

持病と全身状態
心臓や肺、腎臓の病気、糖尿病などがある場合は、病気の状態や治療内容を確認します。
持病があるだけで治療できないとは限りません。一方で、現在の体調や通院状況によっては、静脈瘤の治療よりも持病への対応を優先することがあります。
服用している薬
血液を固まりにくくする薬や血小板の働きを抑える薬を含め、現在服用している薬を確認します。
薬の種類や治療方法によって対応が異なるため、自己判断で中止しないでください。受診時にお薬手帳や服薬一覧があると確認しやすくなります。
歩行や通院、治療後の生活
治療方法を考えるときは、歩行能力や通院の負担も確認します。
治療後に一人で移動できるか、必要な診察を受けられるか、自宅での生活にどの程度支援が必要かによって、選びやすい方法が変わることがあります。
家族や介護者による支援が必要な場合は、誰がどの程度手伝えるかも含めて考えます。
本人が何を改善したいか
治療の目的は、年齢だけを理由に血管を処置することではありません。
痛みを軽くしたい、歩きやすくなりたい、皮膚の傷を改善したい、出血の不安を減らしたいなど、本人が困っていることを確認します。
本人の希望と、治療によって期待できる変化が合っているかを確認したうえで治療方針を考えます。
治療法は年齢だけでは決まりません

下肢静脈瘤には、経過観察、生活上の工夫、弾性ストッキングなどの保存的治療と、静脈へ直接処置を行う治療があります。
現在は、血管の内側から治療する方法など、複数の選択肢があります。ただし、「高齢だからこの治療」「若いからこの治療」と決めるものではありません。
静脈の形や逆流の範囲、皮膚の状態、持病、服薬、本人の希望などによって適する方法は異なります。治療法ごとの詳しい違いは本記事で繰り返さず、治療全体の記事で説明しています。
下肢静脈瘤の治療法と選び方については、こちらの記事をご覧ください。
弾性ストッキングの着脱も治療法を考える材料になります

弾性ストッキングは、手術をせずにむくみやだるさなどを軽くする保存的治療として使用する場合があります。
一方、血管内治療などの後に、治療後の痛みや腫れを軽くする目的で一定期間使用することもあります。治療後に必要かどうかや使用期間は、治療方法や併せて行う処置によって異なります。
高齢になると、手の力が弱い、足先まで手が届きにくい、腰や関節が痛むなどの理由で、一人で着脱することが難しい場合があります。ただし、弾性ストッキングを一人で履けないからといって、下肢静脈瘤の治療を諦める必要があるとは限りません。
シアノアクリレート系接着材を使用するグルー治療では、術後に弾性ストッキングを必要としないことが多いため、着脱が難しい高齢者では選択肢になる場合があります。
ただし、静脈の形や逆流の範囲、皮膚の状態、既往歴、併せて行う処置などによって、グルー治療が適するかどうかや治療後の対応は異なります。全員にグルー治療が適するわけではなく、実際の適応と治療後の指示は担当医の判断を優先します。
グルー治療の仕組みや注意点については、こちらの記事で詳しく説明しています。
弾性ストッキングの選び方と使い方については、こちらの記事で説明しています。
ご家族が相談するときに確認しておくとよいこと

ご家族が受診に付き添う場合は、次の情報があると症状と生活への影響を確認しやすくなります。
ご家族から見た変化も参考になりますが、可能な範囲で本人の希望を確認することも必要です。
早めの受診と緊急受診を分けて考えます

次のような症状がある場合は、年齢に関係なく早めに医療機関へ相談してください。
静脈瘤からの出血が圧迫しても止まらない場合や、出血量が多い場合は、通常の外来相談ではなく緊急の受診が必要になることがあります。
胸の痛み、突然の息苦しさ、失神などがある場合なども、救急医療機関を受診することを検討した方がよいかもしれません。
まとめ
高齢でも、年齢だけで下肢静脈瘤の治療ができないとは決まりません。
治療を受けるかどうかは、症状や皮膚病変が生活に与える影響、全身状態、歩行能力、持病、服薬、本人の希望などから判断します。
症状が軽く、治療の負担が利益を上回ると考えられる場合は、経過観察や保存的治療を選ぶこともあります。反対に、痛みや皮膚病変、出血などで生活に影響がある場合は、年齢にかかわらず治療を検討することがあります。
高齢で治療を受けるか迷っている方へ
症状が生活に影響している、皮膚に変化がある、本人とご家族だけでは判断しにくいという場合は、自己判断で長く悩みすぎず、必要に応じてご相談ください。
診察では、症状と全身状態を確認し、必要に応じて静脈エコー検査で静脈の逆流や血栓の有無を確認します。
静脈瘤が現在の症状に関係しているかを確認し、治療によって得られる利益と、通院や治療後の生活を含めた負担を一緒に整理しながら、今後の対応をご相談しています。







