下肢静脈瘤(バリックス)の原因と予防:なぜ足の血管が浮き出るの?

下肢静脈瘤かもと思ったら

下肢静脈瘤は、医療現場では「バリックス」と呼ばれることがあります。足の静脈にある弁がうまく閉じなくなると、血液が足の方向へ逆流して静脈が広がり、太ももやすね、ふくらはぎの血管が浮き出たり、こぶ状になったりします。[1]

発症には、長時間の立ち仕事や座り仕事、妊娠・出産、遺伝、加齢、肥満などが関係します。この記事では、下肢静脈瘤ができる仕組みと主な原因、日常生活でできる予防法について解説します。

そもそも下肢静脈瘤(バリックス)とは?

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、文字どおり、足の静脈が瘤(こぶ)のようにふくらむ病気です。太ももやすね、ふくらはぎの血管が浮き出て、ボコボコしたり、曲がりくねったりします。

足の静脈には、心臓へ戻る血液の逆流を防ぐ弁があります。この弁がうまく閉じなくなると、血液が足の方向へ逆流し、静脈に圧力がかかって血管が太くなります。[2]

下肢静脈瘤が進行すると、足首の上の皮膚や皮下組織が硬くなり、脚がくびれてへこんだように見えることがあります。ただし、すねやふくらはぎのへこみは、むくみ、外からの圧迫、筋肉や皮下組織の変化などでも起こるため、へこみだけで下肢静脈瘤とは判断できません。[1]

長時間の立ち仕事や座り仕事、遺伝、肥満、妊娠などが、発症や足への負担に関係する要因として知られています。症状は足のだるさ、こむら返りが代表的ですが、実際には非常に多くの症状を起こします。

下肢静脈瘤になることで起こる症状についてはこちらをご覧ください。

下肢静脈瘤の主な原因・関係する要因

下肢静脈瘤の発症や、足への負担に関係する要因として、以下のようなものが挙げられます。

  • 長時間の立ち仕事/歩行・外回り
  • 座りっぱなしのデスクワーク
  • 妊娠・出産
  • 遺伝性
  • 加齢
  • 肥満
  • 便秘(番外編)

では、これらの要因が静脈や血液の流れにどのように関係するのか、詳しく見ていきましょう。

長時間の立ち仕事:たくさん歩いた日にむくみ、痛くなるようになった?

立ち仕事を長時間続けると体への影響が出てくることがあります。

重力の影響で血液が足の方に集まりやすくなる上、立っているだけでは筋肉があまり動かないため、筋肉のポンプ作用が十分に働かず、血液が足に溜まりやすくなります。[2]

この血液の圧力が静脈や逆流防止弁への負担となり、静脈瘤ができやすくなることに関係すると考えられます。[2, 3]

営業職などで長時間歩く方は、歩行によってふくらはぎの筋ポンプが働くため、立ちっぱなしの仕事よりも血液は滞りにくくなります。ただし、長時間の立ち仕事や歩行が続くと足への負担が増え、すでに静脈の逆流がある方では、たくさん歩いた日に足のむくみ(浮腫)や痛みが現れることがあります。それまでなかったむくみや痛みが続く場合は、静脈の逆流がないか確認することが大切です。[2]

座りっぱなしのデスクワーク

デスクワークもまた、ふくらはぎの筋肉を動かさないため、筋肉のポンプ作用が十分に働かず、静脈に血液が溜まりやすくなります。[2, 12]

このような姿勢が長く続くと、足の静脈への負担やむくみにつながります。

妊娠・出産:妊娠中にむくみ・静脈瘤が出てきた? 

妊娠中は、胎児に栄養を送るため血液量が増加する上、妊娠中に増えるホルモン(特にプロゲステロン)の影響で静脈が広がりやすくなります。[13]

このため、血液が溜まりやすくなります。

さらに、胎児が大きくなるにつれて、子宮が骨盤内の静脈を圧迫することで、血液の流れが滞るため、さらに静脈瘤が起こりやすくなります。[8, 13]

下肢静脈瘤のある経産婦395人を調べた国内の研究では、およそ2人に1人(48.4%)で、妊娠をきっかけに静脈瘤が出現したと報告されています。[8]妊娠・出産と静脈瘤の関連は、海外の複数の研究をまとめた解析でも認められています。[7]

遺伝:遺伝するの?

家族に下肢静脈瘤のある場合は発症するリスクが高く、遺伝的な体質も関係しています。[5, 6]

特に両親ともに下肢静脈瘤がある場合は、子どもにも静脈瘤がある割合が高く、134家族を調べた研究では90%と報告されています。[4]これは特定の研究での結果で、個人の将来の発症確率をそのまま示す数字ではありません。

体質であるため、両足とも静脈瘤があることも多い印象です。親子で顔が似るのと同様に血管も似るわけです。

加齢:何歳くらいでなるの?20代・30代でも起こる?

年齢を重ねると、血管の壁の成分や構造が変化し、静脈のしなやかさも変わってきます。[15]

また、加齢に伴い筋肉のポンプ作用が低下することがあり、静脈内の逆流防止弁にも構造の変化が生じます。[15][16]

このため、静脈瘤が起こりやすくなります。下肢静脈瘤は、40歳以上の女性に多く認められ、年齢とともに増加していきます。

日本人では15歳以上の男女の43%、30歳以上では62%もの人に静脈瘤が認められたとの報告もあり、年齢と静脈瘤には明らかな相関関係があるといえます。

なお、クリニックを受診される静脈瘤の患者さんは高齢のことが多いのですが、妊娠・出産・遺伝が原因の場合は比較的若年で発症することが多く、30代や40代、場合によっては20代で膝のあたりや足がだるい、寝てる時に足がつる、と感じている方もよくおられます。

肥満

体重が増えると、特に腹部の肥満によって腹圧が高まり、下肢の静脈にかかる圧力が増えることがあります。こうした圧力は、静脈や逆流防止弁への負担となります。[1, 9]

また、運動不足がある場合には、筋肉のポンプが十分に働く機会も少なくなります。足の筋ポンプ作用が低下すると、静脈の血液を心臓に押し戻す力が弱まり、静脈に血液が溜まりやすくなります。[1, 2]

このように、体重や日常の活動も、足の静脈への負担に関わります。

便秘(番外編)

意外と思われるかもしれませんが、便秘と静脈瘤の関係が指摘されることがあります。

便秘中は排出されない便が大腸に溜まった状態にあります。

便がたまった大腸による静脈の圧迫や、硬い便を押し出そうと強くいきむ際の腹圧の上昇によって、足から戻る血液に負担がかかる、という仕組みが考えられてきました。[10]

このため、静脈瘤の発症に影響がある可能性が指摘されています。排便時に強くいきむ男性では、太い静脈にできる静脈瘤が多かったという研究もあります。ただし、女性では同様の関連が一定して認められず、便秘があれば静脈瘤になるということではありません。[10]

下肢静脈瘤の予防法

下肢静脈瘤の予防や、足への負担を減らすためには、日常生活で次のような工夫が考えられます。

下肢静脈瘤の予防では、運動、姿勢の工夫、体重管理、便秘対策などを組み合わせて考えることが大切です。ただし、生活上の工夫で発症を確実に防いだり、すでにある静脈瘤を治したりできるわけではありません。また、便秘対策の食品や製品についても、静脈瘤の予防効果が確認されているわけではありません。なお、予防の全体像や、自分でできることと医療で補う部分については以下の記事でまとめていますのでよければご覧ください。

参考文献・出典

[1] De Maeseneer MG, et al. Editor’s Choice – European Society for Vascular Surgery (ESVS) 2022 Clinical Practice Guidelines on the Management of Chronic Venous Disease of the Lower Limbs. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2022;63(2):184–267. doi:10.1016/j.ejvs.2021.12.024.

[2] Meissner MH, et al. The hemodynamics and diagnosis of venous disease. J Vasc Surg. 2007;46 Suppl S:4S–24S. doi:10.1016/j.jvs.2007.09.043.

[3] Tüchsen F, Hannerz H, Burr H, Krause N. Prolonged standing at work and hospitalisation due to varicose veins: a 12 year prospective study of the Danish population. Occup Environ Med. 2005;62(12):847–850. doi:10.1136/oem.2005.020537.

[4] Cornu-Thenard A, Boivin P, Baud JM, De Vincenzi I, Carpentier PH. Importance of the familial factor in varicose disease. Clinical study of 134 families. J Dermatol Surg Oncol. 1994;20(5):318–326. doi:10.1111/j.1524-4725.1994.tb01631.x.

[5] Ahmed WUR, et al. Genome-wide association analysis and replication in 810,625 individuals with varicose veins. Nat Commun. 2022;13:3065. doi:10.1038/s41467-022-30765-y.

[6] Robertson L, Lee AJ, Evans CJ, et al. Incidence of chronic venous disease in the Edinburgh Vein Study. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2013;1(1):59–67. doi:10.1016/j.jvsv.2012.05.006.

[7] Ismail L, Normahani P, Standfield NJ, Jaffer U. A systematic review and meta-analysis of the risk for development of varicose veins in women with a history of pregnancy. J Vasc Surg Venous Lymphat Disord. 2016;4(4):518–524.e1. doi:10.1016/j.jvsv.2016.06.003.

[8] Hirai M, Maki A, Hayakawa N. Varicose Veins in Pregnancy. Jpn J Phlebol. 1997;8(3):255–261.

[9] Willenberg T, et al. The influence of abdominal pressure on lower extremity venous pressure and hemodynamics: a human in-vivo model simulating the effect of abdominal obesity. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2011;41(6):849–855. doi:10.1016/j.ejvs.2011.02.015.

[10] Lee AJ, Evans CJ, Hau CM, Fowkes FG. Fiber intake, constipation, and risk of varicose veins in the general population: Edinburgh Vein Study. J Clin Epidemiol. 2001;54(4):423–429. doi:10.1016/S0895-4356(00)00300-0.

[11] van der Schoot A, Helander C, Whelan K, Dimidi E. Probiotics and synbiotics in chronic constipation in adults: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Nutr. 2022;41(12):2759–2777. doi:10.1016/j.clnu.2022.10.015.

[12] Delis KT, et al. Lower limb venous haemodynamic impairment on dependency: quantification and implications for the “economy class” position. Thromb Haemost. 2004;91(5):941–950. doi:10.1160/TH03-12-0754.

[13] Smyth RMD, Aflaifel N, Bamigboye AA. Interventions for varicose veins and leg oedema in pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(10):CD001066. doi:10.1002/14651858.CD001066.pub3.

[14] Deng X, et al. Network meta-analysis of probiotics, prebiotics, and synbiotics for the treatment of chronic constipation in adults. Eur J Nutr. 2024;63(6):1999–2010. doi:10.1007/s00394-024-03410-1.

[15] Molnár AÁ, et al. The aging venous system: from varicosities to vascular cognitive impairment. GeroScience. 2021;43(6):2761–2784. doi:10.1007/s11357-021-00475-2.

[16] van Langevelde K, Srámek A, Rosendaal FR. The effect of aging on venous valves. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2010;30(10):2075–2080. doi:10.1161/ATVBAHA.110.209049.

生活上の対策を続けても症状が残る場合は専門医に相談を

下肢静脈瘤は、生活習慣や遺伝、妊娠・出産、加齢など様々な要因で発生します。生活習慣の是正や定期的な運動など、予防策を講じることが大切です。これらの対策を行っても症状が残る方やご心配な方は一度、医療機関で超音波検査(下肢静脈エコー検査)をしてもらうことが大切です。

本記事を最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
困っておられる御本人様はもちろん、周りの方にもし思い当たる症状の方がいらっしゃるようであれば記事をシェアしていただけますと幸いです。


もし当院への受診の御希望がございましたら、お気軽にご相談ください。
患者様一人ひとりの状態に合わせて、検査から治療まで誠実に対応させていただきます。

この記事を書いた人
春山興右

このブログでは、日々の診療の中で感じたことや、患者さんから実際によくいただく質問などをもとに書き始めました。
教科書的な内容はもちろんですが、本には書かれていない、現場で診療を続けていて初めてわかる知恵や皆さんが知りたいと感じることを、素朴に、わかりやすくお伝えしていけたらと思っています。

静脈瘤の診療は、国内外で取り組んできた医療ボランティア活動と並んで、私にとっては大切なライフワークであり、生きがいのような存在です。
ところどころ熱が入りすぎてしまったり、至らない点も多いかと思いますが、どうか温かい目でご覧いただけたら嬉しいです。

資格は、脈管専門医・指導医、下肢静脈瘤血管内焼灼術 実施医・指導医、皮膚科専門医、弾性ストッキング・圧迫療法コンダクターなどです(治療者兼当事者であり、毎日弾性ストッキングを履いています)。
よろしくお願いしますm(_ _)m

春山興右をフォローする
下肢静脈瘤かもと思ったら静脈瘤の予防(自分でできる対策)
シェアする
春山興右をフォローする
タイトルとURLをコピーしました