「下肢静脈瘤の血栓が、そのまま脳や心臓に飛ぶことはありますか?」
「足が壊死して、切断しなければいけないのでしょうか?」
「下肢静脈瘤と深部静脈血栓症は、同じ病気ですか?」
外来でも、このような質問をいただくことがあります。
結論からいうと、下肢静脈瘤にできた血栓が、そのまま脳や心臓へ飛ぶと考える必要は通常ありません。また、一般的な下肢静脈瘤だけで足が壊死し、切断が必要になることを心配する必要も通常ありません。ただし、下肢静脈瘤に起こりやすい浅い静脈の血栓と、足の深い静脈に起こる深部静脈血栓症は、同じ「血栓」という言葉がついていても別の状態です。
下肢静脈瘤がある方では深部静脈血栓症が多かったという研究報告はありますが、静脈瘤が直接の原因なのか、年齢や体質など共通する背景が関係しているのかまでは分かっていません。そのため、必要以上に怖がることも、反対に「静脈瘤だから大丈夫」と決めつけることも避けた方がよいと思います。
この記事では、下肢静脈瘤と深部静脈血栓症の関係に絞って、できる場所の違いと、どのような症状なら確認した方がよいかを解説します。
動画でも解説しています
以下の動画では、下肢静脈瘤の血栓と深部静脈血栓症の違いを、図を使いながら説明しています。
足の血栓全体を知りたい方へ
血栓の種類、症状、原因、予防、受診を考える目安については、以下の総合記事でまとめています。
下肢静脈瘤にできる血栓と深部静脈血栓症は、場所が違います

医学用語は難しく見えますが、まずは血栓ができる場所で分けると理解しやすくなります。
- 表在静脈血栓症(血栓性静脈炎):皮膚に近い、浅い静脈にできる血栓
- 深部静脈血栓症(DVT):筋肉の中を通る、深い静脈にできる血栓
私は患者さんへ説明するとき、深い静脈を「高速道路」、浅い静脈を「一般道」にたとえることがあります。足の静脈血の多くは深い静脈を通るため、深部静脈血栓症では足全体の流れに影響しやすくなります。
下肢静脈瘤で起こりやすいのは、皮膚に近い静脈にできる表在静脈血栓症です。血管に沿って赤くなり、触ると硬く、痛みを伴うことがあります。
多くは深部静脈血栓症とは異なる経過をとりますが、浅い血栓ならすべて同じというわけではありません。血栓の位置や広がりによっては、深い静脈との位置関係を超音波で確認した方がよい場合があります。
血管に沿う赤みや硬いしこりがある方へ
表在静脈血栓症の症状、検査、治療については、以下の記事で詳しく解説しています。
下肢静脈瘤があると、深部静脈血栓症になりやすいのでしょうか

下肢静脈瘤がある方とない方を比べた観察研究では、下肢静脈瘤がある方で深部静脈血栓症が約5倍多くみられたという報告があります。
「5倍」と聞くと、とても高い確率のように感じるかもしれません。ただ、発生率で見ると、下肢静脈瘤のある方を1,000人、1年間追った場合に約6.6件、下肢静脈瘤のない方では約1.2件に相当する数字でした。つまり、下肢静脈瘤がある方の多くに起こるという意味ではありません。
また、これは診療データを用いた観察研究であり、下肢静脈瘤が深部静脈血栓症の直接の原因であると証明したものではありません。 年齢、肥満、活動量、ほかの病気など、両方に関係する背景が影響している可能性もあります。
肺塞栓症についても同じ研究で差はみられましたが、深部静脈血栓症ほど関係が明確とはいえません。下肢静脈瘤があるというだけで、深部静脈血栓症や肺塞栓症を過度に心配する必要はないと思います。
ただし、片足だけが急に腫れた、ふくらはぎの痛みが急に出た、といった症状まで静脈瘤のせいと決めつけないことは大切です。
静脈瘤の血栓が、脳梗塞や心筋梗塞の原因になるのでしょうか
「足の血栓が、そのまま脳や心臓へ飛ぶのでは」と心配される患者さんは多くいらっしゃいます。
しかし、通常の体の構造では、足の静脈にできた血栓がそのまま脳や心臓の血管へ流れて詰まることはありません。足の静脈から流れた血液は、その前に肺の細い血管を通るからです。
実際に下肢静脈瘤をお持ちの方が脳梗塞や心筋梗塞になることはありますが、多くの場合、それは下肢静脈瘤とは別に起きたものと考えます。
症状によって、相談先を分けて考えます

足の症状だけで、浅い血栓か深い血栓かを完全に見分けることはできません。相談先は、症状の出方で分けて考えると分かりやすくなります。
- 下肢静脈瘤のある血管に沿って、赤み・痛み・硬いしこりが出た
表在静脈血栓症の可能性があります。静脈瘤を診る医療機関で、超音波検査を含めて相談できます。 - 片足全体が急に腫れた、急なふくらはぎ痛がある
静脈瘤だけの症状と自己判断せず、深部静脈血栓症の検査や治療に対応できる総合病院などへ、早めにご相談ください。 - 息苦しさ、胸の痛み、失神などを伴う
無理をせず、速やかに救急外来など医療機関へご相談ください。
当院では、下肢静脈瘤があり、その血管に沿って赤みや硬いしこりが出た場合など、静脈瘤と表在静脈血栓症の関係を超音波で確認しています。
まとめ 下肢静脈瘤の血栓とDVTは、分けて考えましょう
下肢静脈瘤で起こりやすい表在静脈血栓症と、深い静脈に起こる深部静脈血栓症は、できる場所も対応も異なります。
下肢静脈瘤がある方でDVTが多かったという報告はありますが、静脈瘤が直接の原因だと証明されたわけではありません。静脈瘤があるだけで必要以上に心配する必要はありませんが、急な片足の腫れや痛みまで静脈瘤のせいと決めつけないことが大切です。
静脈瘤のある血管に沿って赤み、痛み、硬いしこりが出た場合は、表在静脈血栓症の可能性があります。見た目だけで深い静脈との関係までは分からないため、気になる場合は超音波で確認できます。
下肢静脈瘤の血管に赤みや硬いしこりがあり、不安な方へ
「この赤みや硬いしこりは血栓なのだろうか」
「このまま様子を見ていて大丈夫なのだろうか」
と、不安になる方もいらっしゃると思います。
下肢静脈瘤のある血管に沿って赤みや硬いしこりが出た場合、見た目だけで血栓の位置や広がりまで判断することはできません。
私の診察では、症状が出た時期や痛みの程度などを伺い、足の状態を確認したうえで、超音波検査で静脈の逆流や血栓の位置を調べます。静脈瘤に伴う浅い血栓なのか、深い静脈との位置関係も含めて確認します。
すべての血栓を必要以上に怖がる必要はありません。状態を確認したうえで、経過を見てよいのか、治療を考えた方がよいのか、その方に合った対応をご説明します。




