「長時間立っていると、だんだん気分が悪くなる……」
「冷や汗や吐き気が出て、失神してしまうこともあるのはなぜ?」
このような症状があると、「自分は体力がないのでは」「我慢が足りないのでは」と思ってしまう方もいるかもしれません。
しかし、長時間の立位、暑さ、採血、痛みなどをきっかけに血圧や心拍数が下がり、脳へ流れる血液が一時的に減る迷走神経反射(血管迷走神経性失神)で説明できることがあります。
気が遠くなる感じ、冷や汗、吐き気、目の前が暗くなる感じがしたら、無理に立ち続けないことが最も大切です。まず座るか横になり、転倒を防いでください。
この記事では、迷走神経反射が起こる仕組み、失神しそうな時の対処法、日常生活での予防、Head-up Tilt Test(ティルト試験)や弾性ストッキングの考え方を解説します。
解説動画|長時間立っていられない時の原因と対策
動画でも解説しています
文章より先に全体像をつかみたい方は、動画からご覧いただいてもよいと思います。
下肢静脈瘤と間違えやすい症状も知りたい方へ
足の症状を中心に、下肢静脈瘤と似て見える病気の全体像はこちらでまとめています。
迷走神経反射とは? 血圧や心拍数が下がり、脳の血流が一時的に減る反応

迷走神経反射は、長時間の立位、暑い環境、痛み、採血、強い緊張などをきっかけに、自律神経の反射によって血圧が下がったり、心拍数が遅くなったりする状態です。
その結果、脳へ流れる血液が一時的に少なくなり、めまい、冷や汗、吐き気、顔面蒼白、目の前が暗くなる感じが起こります。さらに進むと、短時間意識を失うことがあります。
迷走神経だけが単純に「過剰反応する」と説明するより、血圧や心拍数を保つ反射がうまく働かず、一時的に脳の血流が不足すると考えると分かりやすいと思います。
迷走神経反射の症状と起こりやすい場面

よくあるきっかけは次の通りです。
- 長時間立ち続ける
- 暑い場所や混雑した電車内にいる
- 水分が足りていない
- 採血、注射、痛み、けがを見る
- 強い緊張や恐怖を感じる
- 疲労や睡眠不足が重なる
ただし、立ちくらみや失神がすべて迷走神経反射とは限りません。起立性低血圧、不整脈などの心臓の病気、薬の影響など、別の原因でも似た症状が起こります。
迷走神経反射が起こりそうな時の対処法
「失神しそうだけれど、ここで座ったら迷惑かもしれない」と無理をして立ち続けると、転倒してけがをすることがあります。
前触れを感じたら、次の順で安全を確保してください。
- その場で立ち続けず、座るか横になる
- 可能であれば足を少し高くする
- 衣服を緩め、暑い場所や混雑から離れる
- 症状が治まっても、急に立ち上がらない
横になれない時は、足や腕の筋肉に力を入れます
両足を交差させ、太もも・お尻・お腹に力を入れる、両手を強く握り合って左右に引っ張る、といった方法があります。筋肉に力を入れることで一時的に血圧を保ち、安全に座ったり横になったりする時間をつくります。
ただし、すでに意識が遠のいている時は無理に続けず、転倒しない姿勢を優先してください。
日常生活でできる予防

迷走神経反射を完全に防ぐ方法があるわけではありませんが、自分のきっかけと前触れを知ることで、失神まで進むのを避けやすくなることがあります。
- こまめに水分を取る
- 長時間立つ場面では、足踏みやふくらはぎの筋肉を動かす
- 暑い場所、入浴後、疲労や睡眠不足が重なる時は無理をしない
- 採血で起こりやすい方は、最初に医療者へ伝え、横になって採血してもらう
- 前触れを感じたら「もう少し我慢」せず、すぐ座るか横になる
塩分を増やす方法が勧められることもありますが、高血圧、心臓病、腎臓病などがある方には向かないことがあります。自己判断で増やすのではなく、医師に確認してください。
血圧を下げる薬や利尿薬などが関係する場合もありますが、処方薬を自分で中止してはいけません。症状との関係が気になる時は、処方した医師へ相談してください。
Head-up Tilt Test(以下、ティルト試験)で迷走神経反射を確認します

ティルト試験では、ベッドに横になった状態から体を起こし、心拍数や血圧がどのように変化するかを観察します。
病歴や診察から迷走神経反射が疑われ、さらに確認が必要な場合などに、循環器内科などで行われる検査です。
検査中に普段と同じ前触れや失神が起こり、それに伴う血圧や心拍数の変化が確認されれば、迷走神経反射の診断につながります。
検査結果だけを見るのではなく、普段の症状や失神した時の状況と合わせて判断します。
弾性ストッキングも対策の一つとして検討できます

立っている時は重力によって血液が足にたまりやすくなります。弾性ストッキングで足を圧迫し、心臓へ戻る血液を保つことも、迷走神経反射の対策の一つです。
長時間立つと症状が出やすい方では、弾性ストッキングの使用を検討してもよいと思います。
弾性ストッキングを履けば、すべての方の失神を防げるという意味ではありません。
弾性ストッキングの圧は、失神の重症度だけで決めるのではなく、体格や持病、着脱のしやすさなども含めて選ぶのがよいと思います。
水分を取ること、前触れがあれば早めに座ること、足の筋肉に力を入れることと合わせて、弾性ストッキングも選択肢として考えてよいでしょう。
弾性ストッキングの履く時間を知りたい方へ
いつ履き、いつ脱ぐかについては、こちらの記事で詳しく説明しています。
圧迫療法の全体像を知りたい方へ
下肢静脈瘤に対する弾性ストッキングと圧迫療法については、こちらの記事でまとめています。
私自身も迷走神経反射を経験しています

実は、私自身も迷走神経反射を持っています。
中学生の時に2回、学校で気を失ったことがあり、医学生になってからも実習中に気を失ったことがあります。中学生の時は、田舎から都内の学校まで3時間かけて通学していました。満員電車で長時間立っていると体調が悪くなることがあり、いつも悩んでいました。
当時はインターネットもなく、医学的な知識もありませんでした。そのため「自分はだらしがない」と自分を責めていました。今振り返ると、迷走神経反射の症状だったのだと思います。
採血でも誘発されることがあるため、検診などで採血をする時は、あらかじめ迷走神経反射があることを伝え、横になった姿勢で採血してもらうようにしています。
40代になってから再び症状が出たことをきっかけに、都立病院でティルト試験を受けました。検査では実際に普段と同じような反応が誘発され、自分の長年の症状を整理する手がかりになりました。
担当の循環器科の先生から弾性ストッキングを勧められ、私は現在も毎日履いています。弾性ストッキングを履くことで血液循環がよくなっている上、迷走神経反射も誘発されづらくなるため、以後は一度も反射を起こしておらず、調子のよい体調を維持できています。
もちろん、これは私個人の経験です。弾性ストッキングを履けば、すべての方の失神を防げるという意味ではありませんが、参考になる方はいらっしゃると思います。
迷走神経反射と思っていても、循環器内科へ相談した方がよい目安
次のような場合は、迷走神経反射と自己判断せず、循環器内科などへ相談してください。
- 失神を繰り返している
- 前触れがほとんどなく突然意識を失う
- 運動中や横になっている時に失神した
- 胸の痛み、強い動悸、息苦しさを伴う
- 失神によってけがをした
- 心臓病を指摘されている、または若くして突然亡くなった血縁者がいる
- 症状が以前より増えている、日常生活に大きく支障がある
長時間立てない時は、我慢せず「倒れる前に座る」ことが大切です
迷走神経反射では、気分が悪い、冷や汗が出る、目の前が暗くなるといった前触れが出ることがあります。
その時に大切なのは、無理に立ち続けないことです。座るか横になり、難しければ足や腕の筋肉に力を入れ、安全な姿勢を取ります。
迷走神経反射は、私自身も長く悩んだ症状です。一方で、失神の原因は一つではありません。繰り返す場合は、循環器内科等で原因を整理してもらうとよいと思います。
足のむくみや静脈瘤も一緒に気になる方へ
迷走神経反射や失神そのものは、循環器内科等への相談が基本です。
一方で、夕方の足のむくみ、重だるさ、すね・ふくらはぎの血管のふくらみなど、下肢静脈瘤を疑う症状も一緒にある場合は、当院で足の状態と静脈の流れを確認できます。





