「足の血管に沿って赤くなり、触ると硬いしこりがある」
「これまで軟らかかった静脈瘤が、急に硬くなって痛み始めた」
このような症状では、血栓性静脈炎、より正確には「表在静脈血栓症」が考えられることがあります。
表在静脈血栓症では、皮膚に近い静脈の中に血栓ができるため、血管に沿った赤み、痛み、熱感、硬い筋やしこりが現れることがあります。ただし、血栓の範囲や深い静脈との位置関係は、見た目や触った感覚だけでは分かりません。
この記事では、表在静脈血栓症に焦点を絞り、特徴的な見た目、硬いしこりが残る期間、超音波検査、治療、放置してよいのか、何科を受診するかを解説します。
血栓性静脈炎(表在静脈血栓症)とは

血栓性静脈炎とは、静脈の中に血のかたまりである「血栓」ができ、その周囲に炎症を伴う状態です。
一般に足の「血栓性静脈炎」と呼ばれているものの多くは、皮膚に近い浅い静脈に起こります。「表在性血栓性静脈炎」や「表在静脈血栓症(SVT)」という名称も、ほぼ同じ病態を指して使われています。この記事では、血栓ができていることを明確にするため、主に「表在静脈血栓症」と表記します。
筋肉の間などを走る深い静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症(DVT)」とは、血栓のできる場所や症状、治療方法が異なります。ただし、浅い静脈と深い静脈は途中でつながっています。表在静脈の血栓が広範囲にある場合や、深い静脈との合流部に近い場合などには、深部静脈への広がりやDVTの合併を確認することがあります。
血管に沿う赤い・硬いしこりの特徴

表在静脈血栓症では、次のような症状がみられることがあります。
- 血管の走り方に沿って赤くなる
- 赤い部分を押すと痛む
- 周囲より熱く感じる
- 皮膚の下に硬い筋、ひも、数珠のようなしこりを触れる
- 以前からあった静脈瘤が急に硬くなり、痛み始める
- 赤みや硬さの範囲が少しずつ広がる
丸いしこりが一つだけ触れる場合もありますが、典型的には静脈に沿った線状・索状の硬さが特徴です。曲がりくねった静脈瘤の中に血栓ができると、数珠のようなしこりとして触れることもあります。
肌の色や血栓の位置によっては、鮮やかな赤ではなく、赤紫色や茶色っぽく見えることがあります。また、炎症が落ち着いた後も、硬い筋や色素沈着がしばらく残る場合があります。
硬いしこりはどのくらい続くのか
痛みや赤みが先に軽くなっても、血栓のある静脈の硬さはすぐにはなくならないことがあります。数週間から数か月かけて徐々に軟らかくなったり、小さくなったりする場合がありますが、経過には個人差があります。
硬さが残っているだけで直ちに悪化とは限りません。一方、赤みや痛みの範囲が広がる、片脚全体が腫れてくる、新しい場所にも硬いしこりが現れるといった変化がある場合は、医療機関への相談を検討した方がよいと思います。
なぜ表在静脈血栓症が起こるのか

足の表在静脈血栓症は、下肢静脈瘤のある方に起こることが多いとされています。静脈瘤の中では血液が滞りやすく、そこに血栓と炎症が生じることがあるためです。
ただし、すべてが下肢静脈瘤によるものではありません。次のような状況が関係する場合もあります。
原因がはっきりしないからといって、直ちに重い病気があるという意味ではありません。一方、静脈瘤のない場所に繰り返す、複数の場所を移動するように再発する場合などには、背景にある病気を調べるかどうかを医師と相談することがあります。
見た目だけでは判断できない理由

表在静脈血栓症は、血管に沿った赤みと硬い筋・しこりが特徴ですが、写真だけで確定診断することはできません。蜂窩織炎では赤みが面状に広がり、発熱や悪寒を伴うことがあります。DVTでは、皮膚のすぐ下に硬いしこりを触れないまま、片脚全体の腫れや痛みが現れることがあります。
また、慢性的な足首周囲のかゆみ、湿疹、黒ずみは、うっ滞性皮膚炎でみられる症状です。これらは症状が重なる場合もあるため、見た目の違いだけで自己判断することは難しいと思います。
足の赤みや腫れを起こす病気の全体像については、既存記事の足が赤く腫れている! 原因について解説で広く解説しています。
ご自身で状態を確認する場合は、患部を何度も強く押すのではなく、次の点をメモしておくと診察時に役立つことがあります。
同じ明るさや角度で写真を撮っておくと、範囲の変化を医師に伝えやすくなることがあります。
超音波検査で確認すること

下肢静脈エコーは、皮膚の上から超音波を当てて静脈の状態を調べる検査です。放射線被ばくはなく、通常、造影剤も使用しません。
症状、しこりの範囲や位置、下肢静脈瘤の有無、血栓症の危険因子などを踏まえ、超音波検査が必要か、どの範囲を確認するかを判断します。必要に応じて、次の点を調べます。
治療方針は、皮膚に見える赤みの大きさだけでは決まりません。血栓の長さや場所、深い静脈との位置関係、患者さん自身の血栓リスクや出血リスクなどを合わせて判断します。
血液検査を行う場合もありますが、表在静脈血栓症は血液検査だけで診断する病気ではありません。DVTが疑われる場合には、症状や背景から可能性を評価し、必要に応じてDダイマーや超音波検査などを組み合わせます。
表在静脈血栓症の治療

治療は、すべての方で同じではありません。
血栓の範囲が小さく、深い静脈との合流部から離れ、血栓が広がる危険性が低いと判断された場合には、痛みや炎症を抑える治療を行いながら経過をみることがあります。状態に応じて、消炎鎮痛薬や圧迫療法などを検討します。
一方、血栓の範囲が広い、太ももや膝裏の深い静脈との合流部に近い、過去の血栓症やがんなどの危険因子がある場合には、抗凝固薬を検討することがあります。抗凝固薬は、血栓を直接溶かす薬ではなく、「血液を固まりにくくする薬」です。DVTを伴う場合には、その状態に応じた治療が必要になります。
表在静脈血栓症は赤く痛むため、抗菌薬が必要と思われることがあります。しかし、通常の表在静脈血栓症は細菌感染ではありません。蜂窩織炎などの感染症を伴う場合を除き、抗菌薬が治療の中心になるわけではありません。
下肢静脈瘤が背景にある場合でも、急性期に全員がすぐ静脈瘤の治療を受けるわけではありません。まず血栓の広がりや炎症の状態を確認し、症状が落ち着いた段階で、再発を減らす目的で原因となる静脈の治療を検討することがあります。
診断がつく前に患部を強く揉んだり、自己判断で圧迫療法や薬を始めたりすることは避けてください。現在処方されている薬は自己判断で中止せず、受診時に薬の名前を医師へ伝えましょう。
何科を受診するか

血管に沿った赤み、痛み、硬い筋やしこりがある場合は、血管外科、心臓血管外科、静脈を専門に診る外来などが主な相談先になります。下肢静脈エコーを行える医療機関であれば、必要に応じて血栓の場所や広がりを確認できます。
パレスクリニックでも、症状に応じて診察や下肢静脈エコーを行い、表在静脈血栓症や下肢静脈瘤との関係を確認しています。より詳しい検査や急性DVTに対する治療が必要と考えられる場合には、総合病院などへご紹介します。
皮膚の赤みが中心で、感染症かどうか分からない場合は皮膚科、専門科が近くにない場合は内科やかかりつけ医に相談する方法もあります。診療科の名前だけにこだわるより、症状の経過を伝え、必要な検査や専門医への紹介につなげてもらうことが大切です。
受診を早めに検討した方がよい症状

表在静脈血栓症の多くは局所の症状が中心ですが、次のような症状がある場合は、救急対応のできる総合病院などへの受診を早めに検討してください。
- 呼吸が苦しい、息切れが急に現れた
- 胸が痛む
- 意識が遠のく、失神する
- 息苦しさとともに冷や汗や強い動悸が続く
- 血の混じった痰が出る
これらは肺塞栓症などでみられることがある症状です。
また、次のような場合も、DVTや感染症などの確認が必要になることがあるため、総合病院などへの受診を検討してください。
- 片脚全体が急に強く腫れた
- ふくらはぎから太ももにかけて腫れや痛みが強い
- 痛みや腫れが悪化している
- 赤みが短時間で広がっている
- 発熱や悪寒を伴う
- がん治療中、妊娠中・産後、最近の手術後などに片脚の症状が出た
脚が青紫色になり、冷たく感じる、動かしにくい、非常に強く痛むといった変化がある場合も、重い血流障害を否定できません。救急対応のできる総合病院などへの受診を早めに検討してください。
よくある質問

血栓性静脈炎は放置しても自然に治りますか?
範囲の小さい表在静脈血栓症では、赤みや痛みが徐々に軽くなることがあります。炎症が落ち着いても、硬い筋や色の変化がしばらく残る場合があります。
ただし、放置してよいかどうかは見た目だけでは判断できません。血栓の範囲や場所によっては、深部静脈への広がりやDVTの合併を確認した方がよい場合があります。初めて症状が出た場合、範囲が広がっている場合、痛みや腫れが強くなっている場合は、医療機関への相談を検討してもよいと思います。
血栓性静脈炎はマッサージで治せますか?
血栓を揉みほぐすことは治療にはなりません。診断がついていない段階では、DVTや感染症などとの区別もできないため、痛い場所を強く揉むことは避けてください。
抗凝固薬は全員に必要ですか?
全員に必要なわけではありません。血栓の長さ、深い静脈との合流部までの距離、血栓症の既往、がんなどの背景、出血リスクを考えて決めます。必要な検査を行ったうえで、薬の必要性を判断します。
写真だけで診断できますか?
写真から赤みや腫れの様子を確認することはできますが、血栓の有無や長さ、深い静脈との位置関係までは分かりません。写真だけで診断することは難しく、診察や超音波検査などが必要になる場合があります。
痛みがなくなっても硬いしこりが残っていれば受診が必要ですか?
炎症が落ち着いた後も、硬い筋やしこりがしばらく残ることがあります。すでに診断を受け、症状が改善している場合は、説明された方法で経過をみることもあります。
一方、診断を受けていない場合、硬さの範囲が広がっている場合、新しい赤みや痛みが加わった場合には、医療機関への相談を検討してもよいと思います。
まとめ
血栓性静脈炎、より正確には表在静脈血栓症では、足の血管に沿った赤み、熱感、痛み、硬い筋やしこりがみられることがあります。以前からあった静脈瘤が急に硬くなり、痛み始めることもあります。
症状が局所にとどまり徐々に軽くなる場合もありますが、血栓の長さや場所、深い静脈との位置関係は見た目だけでは分かりません。症状やしこりの範囲、患者さんの背景に応じて、超音波検査で表在静脈の血栓の範囲やDVTの合併を確認することがあります。
治療は、消炎鎮痛薬や圧迫療法を検討しながら経過をみる場合と、血液を固まりにくくする抗凝固薬を検討する場合があります。必要な治療は一律ではなく、血栓の状態や血栓症・出血の危険性を合わせて判断します。
血管に沿う赤い・硬いしこりが新しく現れた場合は、血管外科、心臓血管外科、静脈を専門に診る外来などへの相談を検討してもよいと思います。パレスクリニックでも、症状に応じて診察や下肢静脈エコーを行い、より詳しい検査や急性DVTの治療が必要な場合には総合病院などへご紹介します。
本記事を最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
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